住宅の解体工事では振動や騒音の発生がつきものです。しかし、ときには近隣の家で地震みたいな揺れが連日起こってしまい、トラブルに発展してしまうケースがあります。
今回は解体工事で揺れが発生する原因や揺れが発生しやすい期間、トラブルを回避するために施主ができる対策について解説します。
解体工事で地震みたいに揺れる原因
解体工事を行っていると、なぜ近隣の家が地震のように揺れてしまうのでしょうか。
解体工事には振動が発生しやすい作業がいくつかあり、これが揺れの被害の原因となります。
家の基礎解体
住宅の解体工事で最も振動が起こるのが基礎の解体工事です。基礎は地面とのつなぎ目になっているため、解体するときに衝撃が地面に直接伝わり、近隣で大きな振動が発生するのです。
住宅の基礎は、主に布基礎、ベタ基礎、杭基礎の3種類があります。
布基礎は基礎部分を重機で掘り起こせば解体できるため、比較的手間がかかりませんが、ベタ基礎は床一面にコンクリートが打設されているため、専用の重機で2~3日かけてコンクリートと鉄筋を解体します。
また、杭基礎は特殊な重機の切断刃で杭と地盤の縁切りを行ったあと、杭を引き上げるため、基礎解体作業のなかでも特に振動が発生しやすいといえるでしょう。
資材の落下
作業中に資材が地面に落下したときに振動が起こる場合があり、これも揺れの原因です。
解体工事では主に油圧ショベルを使い、さまざまなアタッチメントをアーム部分に付け替えて、切断、粉砕、運搬、分別など、さまざまな作業を行います。
住宅に使用されている資材を重機で解体するとき、がれきが地面に落ちることがよくあります。その際の衝撃が、近隣住宅に地震のような揺れとして伝わってしまうのです。
重機の搬入・搬出
解体現場では人の手では解体したり運んだりできないような重さや大きさの資材が多くあるため、建設機械を使用するのが一般的です。建設機械の重量は1t前後、なかには10tにも及ぶものもあり、移動だけでも振動が発生します。
また、土砂や資材を搬入するための大型トラックの走行や荷物の揚げ降ろしの際にも振動は発生します。
そのため、工事現場の周りの住宅だけでなく、搬入経路に近い住宅も振動の影響を受けやすいといえるでしょう。
掘削作業
解体工事では、樹木を根から撤去するときや地中埋設物を撤去するときなどに、掘削作業を行いますが、これも振動の原因です。
解体後の土地に新築工事を行う場合は、良い状態の地盤の上に建物を建設するために根切工事を行うことがあり、その際にも掘削が行われます。
掘削は衝撃が強い工法や乱暴な重機の取り扱いを避けるよう求められていますが、地面を掘り返す作業なので、どうしても振動が発生してしまい、近隣に揺れが伝わってしまう可能性があります。
解体工事で揺れるのはいつまで?
解体工事ではどれくらいの期間、振動が伝わりやすいのでしょうか。一体いつまで家が揺れ続けるのか、気になっている近隣住民も少なくないはずです。
ここでは、一般的な住宅の解体工事の期間について解説するので、目安として知っておきましょう。
木造家屋の解体工事の期間
解体工事の期間は、一般的な30坪の木造家屋で重機を使って作業する場合、およそ2週間が目安です。
解体工事は足場と養生シートの設置、建物の解体、廃材の処分、整地という順で行われます。
建物の解体にかかる期間は3~5日で、主にこの期間が揺れが起こりやすい期間です。その後3~5日間かけて廃材の処分を行うため、この期間にも廃材の移動や車両の走行による揺れや騒音が続く可能性があります。
建物の構造や立地条件によって変わる
解体工事の工期は建物の構造や現場周辺の条件によって大きく変わるので注意が必要です。
同じ30坪でも鉄筋コンクリート造の住宅は2週間以上かかり、50~100坪のマンションなら20~30日、工場なら2~ 3か月程度かかります。
解体現場の条件や環境によっては重機が使えず、職人の手で作業しなければならない場合もあります。
例えば搬入経路が狭く重機を搬入できない、敷地が狭く重機を使用できない、騒音を抑えなければならない地域、などといったケースです。
人力での解体は重機よりも時間がかかり、30坪の木造住宅で、2~3週間はかかると考えておいた方が良いでしょう。
解体工事で家が強く揺れるときに苦情が入るのはどこ?
解体工事では、業者が慎重に作業していても、どうしても振動や騒音が発生して近所に迷惑をかけてしまいます。気を付けていてもクレームが発生してしまうこともあるでしょう。
では、解体工事のクレームはどこに入りやすいのでしょうか。ここでは主に苦情が入る先を紹介します。
施工主
施工主が近所の人や顔見知りの場合は、まず、施工主である家主にクレームが入るケースがあります。
施工主にクレームが入った場合はできるだけ早く、業者に苦情が入った旨とその状況を伝えて対策を依頼しましょう。
ただし、施工主が直接対応をしようとするとトラブルに発展する可能性があります。近隣からのクレーム対応は解体業者の仕事の一つなので、対応は業者にお願いするようにしましょう。
また、契約前には近隣対応の窓口になってくれる業者なのか事前に確認しておくと安心です。
解体業者
クレーム先として施工主に次いで多いのが、解体業者です。工事前の挨拶回りの際に工事に関する窓口は解体業者だと伝えていることも多いので、挨拶回りのチラシに記載した業者の電話番号に苦情が入ることはよくあります。
解体業者は、作業に対するクレームを受けたときは、クレームの内容が振動の場合は工法の変更、騒音の場合は防音シートの追加、粉塵の場合は散水量や回数を増やす、などして対応します。
対策方法によっては人件費や水道代など、施工主の負担が増える場合も。しかし、近隣住民との揉め事を避けるためには必要経費と考えた方が良いでしょう。
市区町村などの自治体
基準値を超える振動や騒音が起こっているときは、市区町村の窓口に相談が行くケースがあります。
地方公共団体は相談者からの相談内容を踏まえ、基準が守られていないと判断した場合は、解体業者や元請業者に対して改善勧告あるいは改善命令を出せます。
解体工事における振動の上限は75デジベル、騒音の上限は85デジベルまでが基準値です。
市区町村が指導するのは規制が守られていないケースですが、規制を守って作業することを前提としたうえで、近隣住民にできるだけストレスを与えないように配慮した工事を行うことも大切です。
解体工事で揺れるときの近隣対応
解体工事で揺れが予想される場合、事前に正しい対応を行っておくことでトラブルを避けられます。
ここでは具体的な近隣への対応方法をお伝えするので、解体業者と相談のうえ、近隣住民を気遣った工事ができるよう対策を立てておきましょう。
近隣住民へ挨拶をし理解を得る
解体工事を予定している場合は、事前に近隣住民に挨拶回りをしましょう。
挨拶回りは解体業者も行ってくれますが、施工主も直接挨拶に行き、説明しておくだけで印象が大きく変わります。
挨拶の際には作業日程や騒音・振動が起こる時間、問題が起こった場合の連絡先などを記載した紙を渡すと良いでしょう。
もし、解体工事によって外壁がひび割れを起こすなど、住宅を破損してしまった場合、責任を追及される可能性があります。
その際、修理・補修は解体工事を行った側で行いますが、本当に解体工事が原因の破損なのかを明らかにするため、工事前には挨拶だけでなく家屋調査をしておくことをおすすめします。
振動規制法を事前に確認しておく
工事前には、振動規制法と騒音規制法を確認しておくことも大切です。振動規制法は、解体工事で発生する振動が地盤や周辺の建物に与える影響を抑えるための法律で、一定規模以上の重機を使用する場合の振動は75デジベル以下と定められています。
騒音規制法では、解体工事で発生する騒音を85デジベル以下にしなければなりません。
また、作業ができる時間帯は午前7時~午後7時まで、工事は連続で6日までとなり、週に1日は作業しない日を設ける必要があります。
このような規制については解体工事業者が熟知していますが、施主側でも知識を持っておくと、トラブルが起こったときにも対応しやすくなるでしょう。
低騒音型の建設機械を使用
騒音・振動対策のためには、低騒音型・低振動型建設機械の使用が効果的です。
国土交通省でも生活環境を保全すべき地域で実施する工事では、指定を受けた建設機械の使用を推進しています。
建設機械は工事の何日も前から手配しています。工事が始まってから苦情が発生し、予定していた工法を続けると苦情に対応できないことが判明すると、一旦工事を中止して工法を再検討しなければなりません。
このようなことがないように、事前に使用する機械と工法を十分検討する必要があります。
どのような機械で解体作業を行うかは、見積りの際に業者に質問してみると良いでしょう。
作業時間や作業方法の工夫
解体工事による苦情を減らすために、作業する時間や作業方法を工夫するのも一つの方法です。解体工事は、法律や条例に則って作業していてもクレームが発生することがあります。
定められたルールに従っていれば、必ずしも住民の要望にこたえる必要はありませんが、その後のトラブルを避けるためにも、できる範囲で要望を受け入れ、対策することが大切です。
近隣住民の意見を聞き、解体業者と話し合って作業時間をずらすなどして、対応すると良いでしょう。
防音シートや防音パネルの設置
解体工事の際には防音シートや防音パネルの設置の有無を、業者に確認しておきましょう。
防音シートとは、養生シートの一種で、吸音効果のある特殊な素材により、騒音を吸収または遮断するシートです。防音パネルは防音効果のある素材がパネル状になったものを指します。
防音シートの素材はさまざまで、繊維の素材や特殊なコーティングなど、工事の内容に応じて最適なシートを選ぶ必要があります。
また、シートの厚みも防音効果を左右するので、どのような防音シートや防音パネルを使用するのか、事前に業者に聞いておくと安心です。
まとめ
解体工事では騒音や振動がつきものです。近隣住民とのトラブルを避けるためは、事前挨拶や協力へのお礼などを行い良好な関係を維持するだけでなく、業者選びもしっかり行いましょう。
業者を選ぶ際は複数業者から相見積もりを取り、作業内容や費用だけでなく、周囲への配慮ができる業者かどうか見極めて契約することが大切です。
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